〈結婚記念日には思い出す〉歯抜けじじぃと鼻毛切り
麦が小学生だったある日、クラスの面白い男子が、最寄りの駅前で見た出来事を話しだしました。
駅のところ歩いてたら、おっさんがおってん。
そのおっさん、いきなり被ってるカツラをスポッと持ち上げて、
ハンカチで頭をキュキュキュッと拭いて、
またスポッと戻してん。
暑かったんやろな。
麦はその光景を思い浮かべて大笑いをしながら、
そうか、面白い人には面白いことが寄ってくるんだな、
と嫉妬にも似た感情を覚えました。
それから10年と少しの時間が経ち、ついに麦にも寄って来たのです!
それは、婚姻届提出時でした。
〈歯抜けじじぃ〉
この間、麦夫妻は13回目の結婚記念日を迎えました。不吉な数字。
夫はプレゼントに、イソギンチャクのブレスレットを選んでくれていました。カワィィ
結婚記念日には毎年必ず、婚姻届提出時の思い出話が登場します。
夫と麦の実家は同じ路線にあり、割と近かった(偶然です)ので、なんとなく夫の実家近くの区役所で婚姻届を出すことにしました。
両家の両親揃ってお食事の後、若かった夫と麦はウキウキと区役所の休日受付け窓口に向かったのでした(デキ婚なので全て迅速に進む)。
本館の向かい側にある、小さな建物。
入口ドアの横に、休日受付けココみたいな表示。
おぉ〜ココやココや!
夫が扉を開けて、一歩、中に入りました。
麦も続いて入ろうとしましたが、夫がそこから動かないので入れません。
どうしたんや?と思って夫を見ると、夫は目を見開き、一点を見つめたまま、立ちすくんでいます。
何事か!?と麦が夫の視線の先に目を向けると
前歯(上)が1本ないおじさんが
抜けた前歯の穴に差し込むスタイルのくわえタバコで、こちらに向かって歩いて来ているのでした。
その姿に気圧された夫がギクシャクと婚姻届を差し出すと、おじさんはタバコを穴から抜き取り、クシャリと笑って
おめっとぅさん
と言ったのでした(京都弁のおめでとう)。
ひぃぃーーー
(夫婦となった夫と麦の心の叫び)
多分おじさんは、書類に不備がないか等を確認してくださったのだろうけれど、夫も麦も全く記憶がありません。
書類の提出を終えて、休日用小屋から転がり出た我々。
夫はまだ目をまん丸にしたまま
あ、ア、アレは何やったんや!?
と言いました。さらに、
妖怪か?
と、結構真剣な顔でつぶやきました(おじさん失礼なこと言ってごめんなさい)。
麦は、ついに自分にも面白いのキタ!と思い、小学生の頃からの積年の嫉妬心が解けていくのを感じました。
以来、麦家では妖怪歯抜けじじぃの話として語り継がれています。
〈鼻毛切り〉
麦の仕事の都合により、歯抜けじじぃに婚姻届を提出した後、数ヶ月経ってから同居を始めた麦夫妻。
ある夜、夫が洗面室にこもったきり、なかなか出て来ません。
何してんの〜?と何気なく覗いてみると、
鏡の前に、麦の眉毛切り用ハサミで真剣に鼻毛を切っている夫がいました。
麦は、今度は怒りのこもった声でもう一度、
何してんのぉ〜?💢
と聞きました。
夫はこちらを振り向き、朗らかに
こっちの方が切りやすいなっ!✨
と言いました。
自分の持ち物である先が丸い鼻毛切りバサミより、キレ味が良かったようです。
麦は
あぁ、結婚するって、こういうことなんやな。
と、なんだかひどく腑に落ちたのでした。
13回目の結婚記念日にも、歯抜けじじぃと鼻毛切りについて無事思い出すことができました。
来年も思い出せるといいな、と思います。